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インプラントは何年もちますか ― 寿命を決める3つの条件を歯科医師が解説

2026年11月6日

インプラントは何年もちますか ― 寿命を決める3つの条件を歯科医師が解説

掲載先(案)/musashikosugi/implant/lifespan/ 執筆 秀島 学

インプラントのご相談で、最も多くいただく質問です。

お答えする前に、ひとつお伝えしておきたいことがあります。当院では、この質問に「何年もちます」と年数だけでお答えすることはしていません。インプラントの寿命は、本数でも年数でもなく、入れた後の条件で決まるからです。

当院が実際に患者さんにお伝えしている内容を、そのまま書きます。

「10年生存率95%」という数字の読み方

学術論文では、単独のインプラントについて10年生存率95%以上、20年生存率でも90%近いという報告があります(Buserら、Jungらの報告)。比較として、ブリッジの10年生存率は約80〜90%と報告されています(Salinasら)。ただしブリッジの数字は「ブリッジが外れなかった」割合で、支えにした歯がその後どうなったかは含まれていません。

図1 失った歯を補う3つの方法の比較

数字だけを見れば、インプラントは優秀な治療法に見えます。

図2 「生存率」と「問題なく使えている」の違い

ただし、この「生存率」という指標には注意が必要です。生存率とは「抜け落ちずに残っている割合」のことで、状態の良し悪しを問いません。

10年間抜け落ちていなくても、その周りで骨が溶け、歯ぐきから膿が出ることを繰り返しているなら、それは患者さんにとって成功と言えるでしょうか。統計上は「生存」に数えられますが、実感としては失敗に近いはずです。

ですので、当院では「何年もつか」ではなく「どういう状態で何年使えるか」でご説明しています。そして、その状態を決める条件は3つです。

条件1 ― 清掃とメンテナンス

インプラントには、天然の歯にある「歯根膜」という組織がありません。歯根膜には血管が通っていて、細菌への防御を担っています。インプラントにはそれがないため、いったん細菌感染が起きると、天然の歯より進行が速くなります。

図3 天然の歯(左)とインプラント(右)の、歯ぐきと骨へのつき方の違い

感染には2つの段階があります。

図4 左は骨が溶けていない段階、右は骨が溶け始めた段階

ひとつは「インプラント周囲粘膜炎」。歯ぐきに炎症があり、触れると出血しますが、骨はまだ溶けていない段階です。この段階であれば、多くは改善が見込めます。

図5 粘膜炎と周囲炎の違い

もうひとつは「インプラント周囲炎」。骨が溶け始めた段階です。こちらは、いったん溶けた骨は元に戻りません。

複数の研究をまとめた報告では、5〜10年の間に、インプラント周囲粘膜炎は患者さんの約40〜50%、インプラント周囲炎は約20%前後に起こるとされています(Derksら)。決してまれなことではありません。

つまり、インプラントの寿命は「粘膜炎の段階で止められるかどうか」でほぼ決まります。この段階であれば、専用の器具による清掃と薬液での洗浄で対応できます。骨が溶け始めてからでは、外科処置が必要になり、それでも進行が止められなければ、インプラントを取り出す判断になることもあります。

定期的なメンテナンスをお願いしているのは、この境目を見逃さないためです。

条件2 ― かみ合わせと力

意外に思われるかもしれませんが、インプラントのトラブルで多いのは、細菌よりも「力」です。

図6 インプラントは、骨に入る部分・土台・かぶせ物をネジでつないでいます

メンテナンスにいらした患者さんから、こうしたお話を伺うことがあります。

図7 ネジがゆるんだときに当院が行うこと

・なんとなく噛み合わせがおかしい

・噛むとカチカチと音がする

これはインプラントの内部のネジがゆるみ始めた初期のサインであることが多く、見逃してはいけない訴えです。

ここで大事なことを申し上げます。ネジがゆるんだとき、締め直すだけで終わらせてはいけません。

ネジがゆるむには、必ず物理的な理由があります。部品がきちんとはまっていない、横に動かしたときに強く当たっている、歯ぎしりや食いしばりで過剰な負担がかかっている。原因はそのどれかです。

ゆるみは、インプラント本体が折れる一歩手前の「安全弁」として働いていることがあります。原因を取り除かずに強く締め直せば、次は「ゆるむ」のではなく「折れる」ことになります。折れてしまうと、部品交換では済まず、インプラント本体を取り出す事態にもなり得ます。

ですので当院では、ネジのゆるみを見つけたら、必ずかみ合わせを調べ、強く当たっている箇所を削り、必要であればナイトガード(就寝時の装置)をお作りします。それでも繰り返す場合は、かぶせ物の設計そのものを見直します。

インプラントを長くお使いいただくうえで、かみ合わせの管理は清掃と同じくらい重要です。

条件3 ― 喫煙と全身の状態

喫煙は病気ではありませんが、インプラント治療における最大のリスク要因のひとつです。

図8 喫煙は歯ぐきの血流を減らし、傷の治りに影響します

ニコチンには血管を縮める作用があり、歯ぐきへの血流を妨げます。また一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと結びつき、組織へ運ばれる酸素を減らします。この2つが重なることで、傷の治りが悪くなり、インプラント周囲炎や脱落のリスクが、吸わない方の2倍以上になると報告されています。

図9 全身の状態と、当院の目安

当院では、理想としては完全な禁煙をお願いしていますが、少なくとも手術の2週間前から手術後8週間までの禁煙をお約束いただいています。手術後の8週間は、骨とインプラントが結合する最も大切な時期で、血流が確保できるかどうかが結果を分けるためです。

加熱式たばこ・電子たばこにもニコチンが含まれており、血管を縮める作用はあります。「加熱式だから大丈夫」ではありませんので、同じようにお考えください。

なお、メーカーの保証についても、喫煙が続く場合は対象外となることがあります。

このほか、糖尿病、血液をさらさらにするお薬、骨粗しょう症のお薬、血圧、透析などによって、手術の時期や進め方を変えたり、内科の主治医と相談させていただいたりすることがあります。当院で目安にしている基準を、下の表にまとめました。

なお、血液をさらさらにするお薬や骨粗しょう症のお薬は、以前は手術の前に止めることが多かったのですが、現在のガイドラインでは、原則として続けたまま手術を行います。止めることで、脳梗塞や骨折など、より重い病気のリスクが高まるためです。ご自身の判断でお薬をやめないでください。

初診時にお薬手帳をお持ちいただいているのは、このためです。

当院の考え方

長くお使いいただくために、当院では次のようにしています。

図10 長く使っていただくための当院の方針

ストローマン社のインプラントを使用しています

当院では、スイスのストローマン社のインプラントを使用しています。長期の臨床データが多く蓄積されているメーカーで、部品の供給が長く続くことも、何十年と使う治療では大切な条件です。

図11 セメントが歯ぐきの奥に残ると炎症の原因になります(左)。ネジ固定ではその心配がありません(右)

ネジで固定する方式を基本にしています

かぶせ物の固定には、セメントで接着する方法とネジで留める方法があります。当院は原則としてネジ固定です。理由は2つあり、ひとつは、セメントが歯ぐきの奥に残ると、それ自体が炎症の原因になるためです。もうひとつは、後から外して点検・修理ができるためです。接着してしまうと、外すにはかぶせ物を壊すしかありません。前歯でネジの穴が見える問題についても、現在は穴の向きを傾けられる部品があり、目立ちにくくできる場合があります。

図12 CTでは、のどの奥の空気の通り道(青い部分)の広さも確認しています

CT撮影時に気道も確認しています

インプラントの診断でCTを撮影した際、当院では気道(空気の通り道)の状態もあわせて確認しています。かみ合わせや睡眠時のいびきとの関連が見つかることがあり、必要に応じて医科へご紹介しています。

かみ合わせを含めて診ています

インプラントは単独で存在するものではなく、残っている歯や顎の動きの中に置かれます。当院は、かみ合わせと顎関節の診療に力を入れており、そこを含めた設計を行っています。

よくあるご質問

  1. インプラントは一生もちますか。

一生もつと断言できる治療はありません。ただし、清掃・かみ合わせ・全身状態の3つが管理できていれば、20年を超えて機能している例は珍しくありません。逆にこの3つのいずれかが崩れると、数年で問題が起きることもあります。

  1. 他院で入れたインプラントの調子が悪いのですが、診てもらえますか。

診察しています。他院で埋入されたインプラントのトラブル対応は、当院で比較的多くお受けしている相談です。使われている製品の種類が分かると対応が早くなりますので、治療された医院の資料があればお持ちください。

  1. 骨が少ないのでインプラントは無理だと言われました。

骨の量を増やす方法(骨造成)がいくつかあり、どれを選ぶかは不足している場所と量によって変わります。別の記事で詳しくご説明しています。→ 骨造成の記事へリンク(記事公開後に設置)

  1. 歯ぎしりがあってもインプラントはできますか。

できます。ただし、ナイトガードの併用と、かみ合わせの定期的な調整が前提になります。歯ぎしりの力は想像以上に大きく、対策をしないまま進めることはおすすめしていません。

  1. インプラントが向かない人はいますか。

喫煙を続けられる方、血糖のコントロールが難しい方、定期的な通院が難しい方は、慎重に検討した方がよい場合があります。ブリッジや入れ歯の方が結果的に良い選択になることもありますので、ご相談ください。

費用と治療の流れ

費用(すべて税込)

 インプラント1本 385,000円

  内訳 インプラント体(下部構造) 220,000円

     上部構造(アバットメント・かぶせ物) 165,000円

 検査

  CT撮影 16,500円

 症例により別途かかるもの

  サージカルガイド 110,000円(2本目以降は1本につき11,000円)

  ソケットリフト  55,000円(1本につき)

  サイナスリフト 165,000円(2本目以降は1本につき55,000円)

  GBR(骨造成)  55,000円(1本につき)

 静脈内鎮静法(眠ったような状態で手術を受けていただく方法)をご希望の場合

  麻酔科医が担当する場合 66,000円(2時間まで。以降1時間ごとに11,000円)

  当院の歯科医師が担当する場合 33,000円

 自費診療の期間中は、ご来院ごとに再診料1,100円がかかります。

 保険適用外の自由診療です。

治療期間と通院回数

 骨の量が十分にある場合

  治療期間 下顎で約2か月前後、上顎で約3か月前後

       (手術から最終的なかぶせ物の装着まで)

  通院回数 4〜5回程度

 骨造成などを併用する場合は、期間・通院回数ともに増えます。

主なリスク・副作用

・手術後に腫れ、痛み、内出血が出ることがあります

・下顎の神経に近い部位では、一時的または持続的な感覚の鈍さが

  生じることがあります

・上顎では、上顎洞(鼻の奥の空洞)との関係で、追加の処置が必要に

  なることがあります

・骨と結合しない場合があり、その際は再手術となることがあります

・治療後も、清掃が不十分だとインプラント周囲炎を起こすことがあります

・喫煙を続けられる場合、メーカー保証の対象外となることがあります

・静脈内鎮静法を受けた当日は、車・自転車の運転はできません

お問い合わせ

 仁愛会歯科 武蔵小杉クリニック

 〒211-0063 神奈川県川崎市中原区小杉町1-403 武蔵小杉タワープレイス1F

 電話 044-738-4618

参考文献

  1. Buser D, Janner SFM, Wittneben JG, et al. 10-year survival and success rates of 511 titanium implants with a sandblasted and acid-etched surface: a retrospective study in 303 partially edentulous patients. Clin Implant Dent Relat Res. 2012;14(6):839-851.
  2. Jung RE, Zembic A, Pjetursson BE, Zwahlen M, Thoma DS. Systematic review of the survival rate and the incidence of biological, technical, and aesthetic complications of single crowns on implants reported in longitudinal studies with a mean follow-up of 5 years. Clin Oral Implants Res. 2012;23 Suppl 6:2-21.
  3. Salinas TJ, Eckert SE. In patients requiring single-tooth replacement, what are the outcomes of implant- as compared to tooth-supported restorations? Int J Oral Maxillofac Implants. 2007;22 Suppl:71-95.
  4. Berglundh T, Armitage G, Araujo MG, et al. Peri-implant diseases and conditions: Consensus report of workgroup 4 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions. J Clin Periodontol. 2018;45 Suppl 20:S286-S291.
  5. Renvert S, Quirynen M. Risk indicators for peri-implantitis. A narrative review. Clin Oral Implants Res. 2015;26 Suppl 11:15-44.
  6. Wilson TG Jr. The positive relationship between excess cement and peri-implant disease: a prospective clinical endoscopic study. J Periodontol. 2009;80(9):1388-1392.
  7. Sailer I, Mühlemann S, Zwahlen M, Hämmerle CH, Schneider D. Cemented and screw-retained implant reconstructions: a systematic review of the survival and complication rates. Clin Oral Implants Res. 2012;23 Suppl 6:163-201.
  8. Derks J, Tomasi C. Peri-implant health and disease. A systematic review of current epidemiology. J Clin Periodontol. 2015;42 Suppl 16:S158-71.
  9. 日本口腔外科学会,日本口腔インプラント学会ほか. 抗血栓療法患者に対する歯科治療ガイドライン(第2版). 2020.
  10. 日本骨代謝学会ほか. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)のポジションペーパー. 2023.

執筆者

 医療法人社団仁愛会歯科 理事長

 仁愛会歯科 武蔵小杉クリニック 院長

 秀島 学

  昭和大学歯学部卒業

  所属学会 国際口腔インプラント学会(ISOI)、日本歯周病学会、

       日本審美歯科学会、日本スポーツ歯科学会

 最終更新 2026.11.06

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